打撃格闘技においてミドルキック=中段回し蹴りは、ハイキックに比べると地味でポイントも少ないため、ついおろそかにされがちですが、相手のスタミナを削ったり、相手の意識を腹部防御に集中させておいてからのハイキックへの変化へつなげるなど、基本となる蹴りです。また、特に左脚でのミドルキックはレバーへの打撃となるため、それ単体でも十分にフィニッシュブローになりうる技です。
小~中~高校生とテコンドー全日本ジュニア強化指定選手でもあった筆者の息子の練習記録を参考動画に、実戦的なミドルキックの威力を上げる軸足の返し、当てる場所と当て方、連打方法およびミドル軌道からの変化ハイキックの打ち方・使い方を解説します。
また、ムエタイの全日本チャンピオンの方に直接指導いただいた、ムエタイ式ミドルキックに関しても、実際の動画をまじえてご紹介します。
※本記事は免責同意下での格闘スポーツ競技でのノウハウを解説したものです。他の目的で訪れた方はブラウザの「戻るボタン」で移動してください。
テコンドー主戦績
全日本選手権東日本地区大会3位
全日本選手権東日本地区大会優勝
全日本学生選手権準優勝
全日本選手権準優勝
【Hayate Kamioka選手監修ここから】
ミドルキックの重要性について
冒頭でも解説したように、ミドルキック(中段回し蹴り)は打撃格闘技の試合での組み立てにおいて、ローキックとならび基本となる重要な蹴りです。なぜならば、ミドルキックを撃つには、試合での戦術として重要ないくつかの意味があるからです。その代表的な理由は以下の通りです。
自分のスタミナを温存し相手のスタミナを削る
ミドルキックはハイキックを撃つのに比べると動作が小さいので、自分自身のスタミナを温存することに優れています。そして、相手にとっては呼吸に関わる腹部への打撃となるため、蓄積すればするほど、試合の時間が経過すればするほどスタミナを削られていくことになります。
一見地味なミドルキックの打撃蓄積は、実際の試合において最重要要素の一つである「スタミナの削り合い」において、確実に自分を有利にする戦術です。
こちらの動画は、中学二年生の時の息子が、大人のキックボクシング選手とかなり実戦に近い本気のスパーリングを行ったときのものです。左ミドル(レバー蹴り)の蓄積によって相手のスタミナが徐々に削れ、ハイキックが当たりやすくなっていく様子がおわかりいただけると思います。
なお、動画にはわかりやすく有効打撃が当たった場所と加点ポイント(テコンドールールでの)のテロップを入れてあります。
相手の意識を腹部防御に集中させる
こちらの動画も、息子が中学生のときのスパーリング風景ですが、この頃は打撃格闘技の基本である「ミドルに相手の意識を集中」させておき、相手のガードが下がってきたタイミングでハイキックを撃つことを主眼に練習をしていました。
動画の前半はスパーリング序盤でのミドルを連打の様子、動画の後半は、相手の意識を腹部防御に集中させた上でハイキックを撃ち抜きにいく様子です。
ポイント制打撃競技では精神的なプレッシャーにもなる
フルコンタクト打撃競技であっても、KO以外の要素として「ポイント」という概念が必ずあります。テコンドーやポイント空手ではKO以外にポイントが得点として表示されますし、キックボクシングやムエタイにおいても得点表示こそないものの判定材料としてポイントは存在します。
ミドルキックはハイキックに比べると、加点数こそ少ないものの、当てやすいのでポイントを蓄積していくのに向いています。序盤からコツコツとミドルキックを当てていき、ポイントで上回ると相手にとっては相当強いプレッシャーとなり、その焦りが大きな隙を生むケースも少なくありません。
ミドルキックの威力を上げる方法と当てる場所
軸足を返してミドルキックの威力を高める
一発で効かせるようなミドルキックを撃つために重要なことが、「軸足の返し」です。特に、相手に大きな隙が生まれたようなケースでは、図のように蹴り終わりにはかかとが前を向くほどの大きな軸足の返しと、腰のひねりを加えたフルスイングのミドルキックが有効です。
連打で当てて総威力を増加させる
初心者~中級者での試合では、大きな隙が生まれる瞬間が必ずありますが、上級者~全国区レベルになってくると、そのような大きな隙が生まれることは稀で、上述したフルスイングのミドルキックを撃つシチュエーションも非常に少なくなってきます。
このような場合に、とても有効なのが連打でミドルを当てていき、総ダメージを増加させることで総威力を上げていく戦術です。
また、ミドルキックは、受ける側からすると「息を吐いた瞬間に当てられることを避ける」必要があるため、ミドルキックの連打で攻撃をすると、相手の呼吸のペースが乱れ、大きくスタミナをロストさせることも可能です。
なお、ミドルキックを連打で当てる場合は、蹴り足をたたんで戻さず、真下に下ろして床とのバウンドを利用して再度蹴りのモーションに入るのがコツです。
左ミドルを斜め下45度からレバーに当てる
ミドルキックには左ミドルと右ミドルがありますが、その重要性は左ミドル>>右ミドルです。ミドルキックの対象となる相手の腹部における最大のウィークポイントはレバーですが、レバーは左右非対称な構造をしており、右体側=左ミドルで蹴る場所にあります。
なぜ、レバーが最大のウィークポイントになるかと言えば、レバーには肝動脈・肝静脈と呼ばれる心臓と直結した大きな血管があり、そこに対して打撃が加わることで、脈拍が乱れてスタミナが削られるだけでなく、時に一撃でKOに至ることもあるからです。
なお、レバーは肋骨に覆われ保護されていますので、普通に撃ってもなかなか有効打とはなりません。打撃を有効にするためには、打撃面に対して垂直に入射する必要があり、肋骨はおよそ45度の角度で斜め下方に向いていますので、ミドルキックの威力を最大限伝えるためには、斜め下45度の角度から蹴り上げる必要があります。
ムエタイ式ミドルキックの蹴り方
腕の振りと距離の出る縦回転が重要
こちらの動画は、中学三年生の時のHayate選手がJapanOPEN国際の連覇にむけて、ムエタイの元全日本チャンピオンの方にムエタイ式ミドルキックの指導を直接受けている様子です。
ムエタイの基本的なミドルキックは、腕の振りかぶりによって初動を加速することが重要です。
また、ミドル連打、サイドステップからのミドルキック、右足フェイントからの左ミドルキック、クリンチさばきからのミドルキックなども実戦では大切になります。
ムエタイ式ミドルと言えば、腕を振って大きなモーションですねを叩きつけるイメージがありますが、近代ムエタイではなかなか当たりにくいため、動画最後の「距離の出る縦回転ミドルキック」を蓄積で当てていくことが重要です。
縦回転ミドルキックは、横から撃つのではなく、前蹴りに似た前動作から膝下を回転させて撃つため、速く見えづらく距離も出るため、テコンドー競技にもそのまま応用できました。
なお、縦回転ミドルキックの当てる場所は、自分の足の甲を相手のレバーに当てます。
ミドルキックの戦術的な使い方
腹部に防御意識を集中させてからのハイキックが有効
ミドルキックの戦術的な使い方として非常に有効なのが、試合序盤でミドルキックを多く繰り出し、相手の意識を腹部防御に集中させておいてから、高得点またはKOが狙えるハイキックにつなげる戦術です。
動画は、高校生当時の息子のスパーリングの様子です。とにかく序盤にミドルを集中し、相手のガードが下がった段階でハイキックを決めにいくというのが常套パターンです。
もちろん、蹴る足は相手にとってレバーを狙ってくる足=「左ミドルキック」→「左ハイキック」が主体になりますが、右足の蹴りに関しても相手にはポイント防御の意識もありますので有効です。
前足でのノンスイッチ左ミドル
上級者同士の試合などでは、いったん軸足をスイッチ(右足を前に置きなおす)して打つ左ミドルは前動作の大きさから見切られることが少なくありません。最短距離・最少動作で打つ前足左ミドルを習得することもレベルアップには重要です。
ミドルキック軌道から変化するハイキック
上記のミドルキック集中からハイキックを決める場合に、とても有効なのが「ミドルキックの軌道から跳ね上がる変化ハイキック」です。動画は、自宅ジムで実戦的な変化ハイキックの流れを練習しているものです。
距離をとった戦い方の練習として、ミドルキックは回し蹴りではなく横蹴りになっていますが、中段ミドル軌道から膝下が跳ね上がって上段ハイキックに変化している様子がおわかりいただけると思います。
こちらの動画は、ミドルキック軌道からの変化ハイキックをスローで練習している様子です。変化ハイキックのなかでも効き足ではない左変化ハイキックは非常に難易度の高い技ですが、実際の試合で決めるためには、スローで確実に動作ができるくらいになるような反復練習が必須です。
試合での変化左ハイキック
※動画にはKOシーンが含まれます。
最後にご紹介する動画は、息子が高校生のJOC全日本ジュニア選手権に臨むために「変化左ハイキック」および「変化左上段蹴込み」を反復練習する様子と、実際に全日本ジュニア準決勝の試合動画です。
ミドルキック・中段回し蹴りに対する防御
悪い例・良い例・攻撃的ガード
打撃格闘技では、つい攻撃技の練習に意識をとられがちですが、それよりも重要で組手の基礎となるのが防御です。
▼関連記事
【中段回し蹴りの究極の受け方】ミドルキック肘迎撃ガードを解説
ミドルキックを蹴るための鍛え方
股関節柔軟と股関節周辺インナーマッスルを鍛えるのが重要
ミドルキックを強く速く蹴るために必要なフィジカルな条件は二つです。
まず、無理なく脚を上げるために股関節の前後・左右・捻り方向全ての柔軟が必要不可欠です。
蹴りの筋肉=大腿部の筋肉と思われがちですが、大腿部の筋肉群は膝関節の屈曲と伸展に作用する筋肉です。蹴るために必要な筋肉は、脚自体を上げる股関節周辺インナーマッスルです。詳しくは以下の記事をご参照ください。
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今回のまとめ動画
【Hayate Kamioka選手監修ここまで】
戦績:全日本選手権準優勝・全日本学生選手権準優勝・東日本選手権優勝・全日本ジュニア選手権準優勝など
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