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中学生最後の一戦から10ヶ月、無事に志望校に合格し高校生になったハヤテの復帰戦は全日本ジュニアの予選でもある愛知県選手権でした。
ハヤテの出場階級には、当時ジュニア日本代表の選手がおり、他の選手は対戦を避けて他階級に出場したため、一騎打ちの予定となり、復帰戦としては非常に厳しい臨戦になりました。
結局、対戦相手が怪我で欠場したため、全日本ジュニア出場権の選考試合として、急遽、無差別級優勝者との特別上級試合が組まれました。
愛知県は自動車工業が盛んな地域で、多くのブラジル人移住者が住んでいます。ブラジルは格闘大国だけありテコンドーも盛んで、愛知県には在日ブラジル人の名門チーム「TIGRE」=「虎」というチームがあります。
ハヤテの対戦相手となったのは、そのTIGREのエースでした。どれだけ戦績を残しても、日本国籍がないので、在日ブラジル人選手は日本代表選考会には出ることができない、不遇な環境……
中学生時代に国の強化選手だったハヤテに対する思いは、様々な意味で強く、相手応援団を含め、殺気をはらんだ一戦になりました。
体重身長で大きく上回る無差別級選手に対し、1ラウンドはフットワークと左ハイで大量リードを奪ったハヤテでした。
ビデオには、懸命に先輩を応援するブラジル人小学生たちの声が残っていました。
「あの青い奴の左ハイは見えないんだよ」
「ジョルダン兄ちゃん頑張れ、ぶっ倒せ」
2ラウンド開始早々、警戒していた相手の得意技・ティフルギを被弾したハヤテはダウン…鈍い音がしたので顎の骨が心配でしたが無事でした。
なんとか、カウント内で立ったものの、ダメージがあり、逆転されてしまいました。
最終ラウンドの3ラウンドに左ハイでテイクダウンを奪ったものの、ラスト数秒でまだ2点ビハインドでした。
試合終了間際、セコンドの僕の「いけ、ハヤテ」の声に反応して、ハヤテが撃ったのは……
彼が小学生のときの得意技であだ名でもあった「チッキ」=「顔面蹴込み」でした。
ラスト一秒で、逆転の一撃を決め、全日本ジュニア出場を決めたハヤテでした。
久しぶりに小学生の頃のハヤテに会えたようで、どこか懐かしかったのを覚えています。