ボクシング・キックボクシング・空手・テコンドーなどパンチのある打撃格闘技でのパンチ力を向上させる筋トレに関して、パンチを打つ場所(ヘッドorボディー)と打ち方(ストレート系・フック系・アッパー系)に細かく分類し解説します。
また、パンチ力=パワーとスピードの関係についてもご紹介します。
なお、記載内容は、フルコンタクト空手ジュニア県チャンピオンから五輪を目指してテコンドーに転向し、小学生・中学生・高校生と全日本メダルを獲得し、ジュニア強化指定選手となり、現在、国内最強豪大学で修行中の息子ハヤテのフィジカルトレーナーとして実践してきた、経験と実績に基づいています。
テコンドー主戦績
全日本選手権東日本地区大会3位
全日本選手権東日本地区大会優勝
全日本学生選手権準優勝
全日本選手権準優勝
【Hayate Kamioka選手監修ここから】
※動画にはダウンシーンが含まれます
まずは、こちらの動画をご覧ください。テコンドー全日本ジュニア選手権で二年連続メダル奪取をし、高校生ながらリオ五輪日本代表二次選考会まで進出した筆者の息子・ハヤテの試合でのパンチシーンを編集した動画です。一般的にキックだけの競技と思われているテコンドーですが、実は要所でのワンパンチが非常に重要で、筆者と息子は10年以上にわたり「最適なパンチ」と「最適なトレーニング法」を研究・模索してきました。
今回、ご紹介する内容は、長年の実戦を通じて培われた「生きたノウハウ」です。
打つ場所は二つに分けられる
ヘッド打ちとボディー打ちの違い
パンチは、ターゲットとする部位により大きく二つに分けられます。一つは首から上を打つヘッドパンチ、もう一つは胴体を打つボディーパンチです。この二つの部位を打つ場合、打ち方に大きな差異があります。
ヘッド打ちは、頭部の重量が軽いため、ヒッティングの瞬間に反動は少なくパンチを打った腕が反作用で押し戻されることはありません。ですので、速いパンチを「打ち抜く」または「振り抜く」といった動作が重要となってきます。いわゆる「手打ち」と呼ばれる肩から先の打撃でも十分に有効打となりえます。
一方、ボディーは重量が腕より遥かに重く、「打ち抜く」や「振り抜く」といった打ち方はできません。無理に打ち抜こうとしても、反作用で腕が押し戻されるか、ただ相手の身体を押すだけになってしまいます。この場合、重要なのは打撃を相手のボディーに置いてくることで、わかりやすく表現すると「鐘をつく要領」でヒッティングと同時に素早くパンチを引くことが肝心です。
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ヘッドパンチのスピードを上げる筋トレ
ローテーターカフ(回旋筋腱板)の英語名称・構造・部位詳細
読みかた:かいせんきんけんばん
英語名称:rotator cuff
部位詳細:肩甲下筋|棘下筋|棘上筋|小円筋
ローテーターカフのトレーニング
ヘッドパンチの重要要素=「腕を素早く振る」ためには、腕を動かしている筋肉を鍛えなければいけません。一般的には腕を動かしているのは腕の筋肉と誤解されていますが、腕を動かしているのは体幹部分の肩甲骨周辺にあるローテーターカフ(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)と呼ばれる筋肉群です。
ローテーターカフは肩甲骨後面に位置する棘上筋・棘下筋・小円筋と肩甲骨前面に位置する肩甲下筋に分けられ、それぞれ「エクスターナルローテーション」と「インターナルローテーション」という動作で鍛えることが可能です。
こちらが棘上筋・棘下筋・小円筋に効果のあるエクスターナルローテーションの模範的なトレーニング動画です。最大の留意点は、背中の筋肉を使わないように、ゆっくりとした動作で反動を使わずに行うことです。
こちらが肩甲下筋に効果のあるインターナルローテーションのトレーニング動画です。大胸筋や三角筋などの体幹のアウターマッスルを使わないようにゆっくりと反動を使わずに行ってください。
ボディーパンチを強くする筋トレ
特に重要な3つのトレーニングを厳選
質量のあるターゲットを打つボディーパンチは「脚で打つ」や「腰で打つ」と表現されるように、全身の力を連動させて打つ必要があります。これには、つま先の踏み込みを腰の回転を通して拳に伝えなければならず、その一連の動作を習得するためには多くの技術練習を積んで体得する必要があります。
ですので、ボディーパンチのパンチ力は筋力に依存する割合は低いのですが、十分な技術がある場合、そのパンチ力の強弱差は筋力に影響されます。
また、ボディーパンチは自分の腕よりも質量のある相手の胴体を打つので、効果的なパンチとするためには自身の「体重の乗ったパンチ」を打つ必要があります。そのためには、ヒッティングの瞬間に、図の赤い四角で囲んだ範囲の前面に拳を置く必要があります。この範囲から拳の位置関係が外れた状態でボディーパンチが当たっても、肩から先が跳ね返されて効果はありません。
さらに、すでに解説した通り、胴体に対して打撃を打ち抜こうとすると「相手の身体を後ろへ押す」力になってしまい(上図左)、ボディーパンチとしての有効性は低くなってしまいます。ボディーパンチの効果を高めるためには、当たった拳を素早く引いて「打撃を置いてくる」ことが重要です。
以上の三点から、ボディーパンチを強くするために必要な筋トレを厳選すると、「足の力を拳に伝える腰をひねる力の筋トレ」「体幹の前面で腕を前に出す力の筋トレ」「体幹の前面で腕を後ろに引く力の筋トレ」となります。
足の力を拳に伝える腰をひねる力の筋トレ
腰をひねる力を鍛えるために最適なトレーニング方法が、ボクシング映画などでもおなじみのクランチ&ツイストです。息を吐きながら上体を起こし、身体をひねりながらシュッシュッと短く早く息を吐ききるようにしてください。また、顎は必ず引き気味で行うようしましょう。
体幹の前面で腕を前に出す力の筋トレ
体幹の前面軌道上で腕を前に押し出す力を鍛えるために最適なトレーニング方法が、親指と人差し指で菱形を作って行う「ダイヤモンド腕立て伏せ」です。肘を外に張り出さないようにして行うのが最大のポイントです。
このほかにも、ダンベルを通常のダンベルプレスとは逆向きに保持して行う「ダンベルトライセップスプレス」も非常に有効な筋トレ方法です。
体幹の前面で腕を後ろに引く力の筋トレ
体幹の前面軌道上で腕を素早く引く力のトレーニングとして最適なものが「ナローパラレルグリップ懸垂」です。腕で引くのではなく、背筋(広背筋・僧帽筋)で引くことを意識し、胸を張り肩甲骨を寄せながら動作をしてください。
また、ジムなどでトレーニングを行う場合はケーブルマシンを使ったローイングが最適です。
ヘッド&ボディー両方に重要な筋肉
別名ボクサー筋と呼ばれる前鋸筋の鍛え方
ヘッドパンチとボディーパンチの両方に非常に重要な筋肉が、別名ボクサー筋とも呼ばれる前鋸筋です。前鋸筋は「腕を伸ばした状態からさらに腕を前に押し出す」働きがあり、パンチ力にとても大きく関わる筋肉です。
自重で前鋸筋を鍛える方法
前鋸筋を自重で鍛えるためには、その作用を踏まえて「腕を伸ばした状態でさらに押し出す」動作の腕立て伏せを行うのが最適です。
ダンベルで前鋸筋を鍛える方法
ダンベルで前鋸筋を鍛えるのも、自重トレーニングと同様に、腕を伸ばした状態でさらに前方へ腕を押し出すダンベルプレスを行う必要があります。
パンチの種類による筋トレ
ストレート(内旋)・アッパー(外旋)・フック(肘の固定)
パンチにはヘッドパンチ・ボディーパンチともにストレート系・アッパー系・フック系の三種類があり、そして、それぞれにパンチ力を増すために腕の回旋や固定をともなっています。
ストレートパンチの外旋運動
ストレートパンチはインパクトの瞬間に、拳をやや内旋=手の甲が上を向く方向に回旋させることによりパンチ力が増します。
腕や拳の内旋運動に大きく関わっているのが、上腕三頭筋のなかでももっとも外側に位置する長頭です。その長頭に非常に効果的なトレーニングがケーブルマシンとロープアタッチメントを使ったプレスダウンになります。
アッパーパンチの内旋運動
アッパー系のパンチではストレート系パンチとは逆回転の回旋、すなわち外旋=手の平が上を向く方向に拳を回旋させることでパンチ力が向上します。
腕や拳を外旋させる力を鍛えるために最適な筋トレ方法が、「回旋式ダンベルカール」です。動画のようにダンベルを縦にしたハンマーポジションから、腕を屈曲させながら手の平が上を向く方向に回旋させてください。
フックパンチの肘の固定
フックを打つ場合にもっとも重要なことは、肘の角度を直角に保つことです。この固定ができていないと、打撃は相手に伝わらず、反動として自分の腕に返ってきます。
肘の角度を固定する筋力を高めるために効果的なトレーニング方法がカール台を使ったアイソメトリックスカールです。アイソメトリックスとは筋肉を動かさずに力を入れる筋トレ方法で、具体的には、ダンベルを上げるでもなく下げるでもなく、肘の角度が90度のポジションでひたすらダンベル保持を行います。
重量設定の目安としては、30秒の静止保持で限界がくる重さが最適でしょう。
パンチ力とパワー&スピードの関係
パンチ力=パワー×スピードの二乗
パンチ力は物理的に言えば運動エネルギーで、その式は以下のようになります。
運動エネルギー=1/2×質量×速度×速度
つまり、パンチ力はパワーに比例し、スピードの二乗に比例します。ですので、強いパンチを打つためには筋力(大胸筋・三角筋・上腕三頭筋)だけでなく、速いパンチを打つための体幹インナーマッスル(ローテーターカフ・前鋸筋など)を鍛えることが非常に重要です。
【Hayate Kamioka選手監修ここまで】
戦績:全日本選手権準優勝・全日本学生選手権準優勝・東日本選手権優勝・全日本ジュニア選手権準優勝など
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